鳥羽美花の「型染め」 プロセス

 

 型染めは、絵筆により色を重ね積層感が生まれる絵画技法と異なり、型紙を用いて図柄以外の余白部分を切り落とし、その空間を糊で防染することにより拡散する染料をコントロールし、図柄を創り出していきます。 やり直しのきかない約18の行程を必要としますが、日本における長い染色史の中で、各工程に職人というプロフェッショナルの集団が技術を競い、型染文化を高めていきました。


1.下図
スケッチ、エスキースの後、実物大の下図を墨で描く。彫るときにフォルムがバラバラにならないよう、互いの形を繋げる橋の役目をする「ツリ」という形態を型に加えるという制約があり、これを効率的にデザインと絡めて使ってゆくのが型染技法の一つ。ツリは糊置きの際消すか、あるいはツリを上手く図柄として組み込むことにより、独特の表現形体を生む。白黒のみで下図を考えることにより切り落とすところが明確になる。


2.型彫り
柿渋で防水加工した美濃和紙に下図をトレースし、染まらない部分、つまり糊で伏せて防染したい部分を刀で切り抜いて型紙を作る。切り落とすため、この段階で図柄は二度と後戻りできない。


3.糊置き
双子の蚕が作る繭を選別した糸で織られた「白山紬」と呼ばれる生地を、糊板に密着させ、その上に型紙を重ねる。切り抜いた部分を防染するための、もち粉と小紋糠を蒸した「型糊」を型紙全体に駒べらで置き均一にならしていく。


4.型紙を外す
糊置きした糊が型紙どおりに残るよう、ゆっくり型を生地からはずしていく。型紙通りに型彫りに2ヶ月、糊置きに2時間かかるが、糊置き後、型紙を取るのは一瞬。


5.つり消し
下図で形を繋げるために加えたツリを消すため、ツリの部分にも糊を置いて元の図案に戻す。


6.糊の管理
糊置き後は、乾燥しすぎるとひびが入り割れるため、染め上がるまで湿度管理を常に行うことになる。


7.地入れ
大豆の汁を絞った豆汁をひき、一昼夜寝かせる。大豆のタンパク質が凝固することにより、染料の滲み、ムラを防ぎ、さらに色のコクを出す。


8.染色
19世紀に発明された合成染料は発色に優れ日光堅牢度*が高く、色は無限に作れる。染液を刷毛で順に染め重ねていく。水により拡散する染料を防染糊のきわで堰き止めるため、独特のシャープな線と強い色面が生まれ、布に染み込んだ質感と一体となり、染め特有の深遠な世界を作っていく。 (*染色生地が光を受けることで変色・退色することへの耐性)


9.蒸し
染料を布に定着させるため、杉の木で作られた蒸し箱に入れ100度の蒸気で1時間半ほど蒸す。染料が繊維に浸透し、かがやくような発色が得られる。


10. 水元
最後に水にくぐらせる。防染の役目が終わった糊は、水の中で徐々に取り除かれる。糊を置いたところは染まらず、染色された図柄が水の中でくっきりと表れ、初めて作品と対面できる。水元はその昔、京都では堀川、鴨川など各川で見られ風物となっていた。


これまでがワンクール。再び布の状態になった作品に、色差し、染色、糊置きなどを加えて 作品の深みを出していく。ここからの行程は作品によって異なる為、型紙を使いながら同じものを作るのは不可能。